犬と猫とはね、たいへん敵というかな。私達(わった)こっち伊江島(いーじま)では、犬と猫はハタチ〔敵〕という。伊江島の方言ではカタチ〔敵〕じゃなくして、ハタチ〔敵〕という。話ちょっと忘れた所もあるかも知らんがね。昔、ある伊江島(いーじま)の大農家、お百姓さんのお家のご主人はね、犬、猫、動物が好きだったらしい。で、もう動物をかわいがって、犬と猫、それから牛馬もみんな、家畜もおる。また、雇い人と言えばいいかな、これもまた二、三名、女の子と男の子と、雇いの方も大勢おった。それで、その犬はね、もうしょっちゅう主人が猫をかわいがっているからよ、犬は焼きもちやいて、「この野郎、わんや〔私は〕もういつも床下。猫はもういつも、寒い冬でも夏の暑さでもいつも家の中に閉じこもって、そしてかわいがられている。なんとかこうできないもんかな。」と、犬はもう焼きもちやいていた。そうしたある晩のこと、この家の鰹節が泥棒にやられたか、なんにやられたか、もうなくなっているわけよ。昔は鰹節というのはもう大事(でーじ)な、たいへん貴重な物だったから、そいでもうこの家の主人は下男をみんな集めて、「この家から、夕べ、だれか、鰹節、たいへん大事な鰹節を取ったのはいないか。」と、もうすごい剣幕で怒って言ったら、一番年のいった雇いのおじいさんが、「うちらの雇いの方々はみんな誠(まくどぅ)で正直だから、絶対これ取っていない。」と言った。そうしたら、主人はもう、「まさか、夕べなくなっているんだから。」と言ったからね、また、この一番先輩の雇いのおじいさんは、「うちには門番としてとっても利口な犬も飼っているし、絶対、泥棒が入るようなことはないんじゃないかなあ。」と言ったんだな。そうしたらもう、主人の方も、「そうだね、犬も真面目に門番やっているんだから、泥棒が入ったということはないだろうなあ。」とまた半信半疑で言ったら、今度は二番目の雇いの長(おさ)がよ、「ひょっとすると、これはねずみがやったんじゃないか。人間じゃなくしてねずみがかっぱらっていったんじゃないか。」と言うと、また、第一番のおじいが、「いやいや、これは違う。うちには家を守るりっぱな猫がおるのに。ねずみなんかみんな、絶対この猫がやっつけてしまうから、これもないだろう。」と、いろいろ言ったんだ。そして、主人は二人の話もいろいろ聞き合わしてから、そう言った。今度はもう犬がね、ちょっと猫をやっつけてやろうと思ってよ、二人縁側で口論したわけ。「なあお前、主人の言われるようだったら〔ねずみを捕るはずなのに〕、お前はもうねずみ一匹ぐらいも捕れない。ふん。いつも主人にかわいがられて、それでいい気になりやがって。もう膝の上に座ったり居眠りこいたりなんたるざまだ。ざまあみろ。」と言うんだよな。そうしたら、また、猫も猫で、「お前はしょっちゅう、利口な門番といって、こんなしてもらっているが、お前も本当にねずみがやったのか、また人間の泥棒が取ったのか、まだはっきりしたことは分からんじゃないか。」と、二人もうそうとう頑張った。そうしてもう後は、猫も犬も二人とも、もうなかなかどっちもどっち負けない。で、もう最後は猫は逃げ出したわけよ。そうしたら、犬がね、「こいつはもう、今日はどこまでもやっつけてやらんといかん。」ともうしょっちゅう追跡。もうちゃー追いくるばしぇーな〔ずっとおいかけっこだ〕。そうした場合に、大農家だから、ちょうど庭に大豆をいっぱい干してあるわけよ。そしたら、猫は跳ぶのがうまいからよ、この茣蓙(ござ)みたいなのにいっぱい大豆を干してあるのを猫は難なくこう幅跳びで跳んでいった。犬は跳びきれないでね、この豆に足を取られて転んでしまってね。その間に猫は高い木の上に逃げてしまったと。それで、猫はこの豆のために命拾いした。犬が転んでいる間に、もう自分は逃げて命拾いしたからね、猫はもう大豆は自分の命の親だということで、豆腐食べないらしい。豆腐はもう絶対食べない。今は食べ物も贅沢に豊富にあるから食べないかも知らんがよ。話はその程度。まだ、いろいろ考えればあるんだがね、犬と猫はハタチ〔敵〕という結論。 |