百万長者の話だけど、本当の話なのか嘘の話なのかわからないけれど、ただ聞いた話なんだが、昔こんなことがあったということだけど。昔、山の中に、父親と娘一人と親子で暮していてね、貧乏暮しをしていた親子がいたという話だが。そしてこの親子のね、母親が亡くなってからね、母親はもう亡くなっていないので、父親も淋しくて、またこの娘も母親がいないので二人だけ残されて、淋しいでしょ。それで、猫を一匹養っていて、この猫はもう父親は自分の嫁のように、また娘は自分の母親のように、もう親子三人という形でこんなに暮らして、食事も鍋一つで煮て、三度三度食べさせて、こうして暮していた家なのだが、ある日のこと、またこの父も何かのはずみで亡くなって、あとは娘一人だけ残されるようになった。そうしているうちにまた猫も何かして急に死んでいなくなったので、この娘は頼りにする者もいない。自分が今まで兄弟のように養っていた猫なので、もう自分の家の後ろの畑に持っていって埋めて、四十九日の焼香までしてあげて拝んであげたという話。 それで、ある日のこと、この猫が生きた姿で現われて、この娘の前に来て、「ミヤーウ、ミヤーウ。」と鳴いて、こんなにしてすぐ猫は話をするようにして、娘に感じ取らせた。この娘も大変な、生まれが少し変わっている娘で、この猫がする動作はピンピンと頭にうかんでもう感心とって。「一人でここにいたら、もうこんなにお前は、生まれもこのような生まれしているのだからね。姿もこんなにきれいに、親が産んであげているのだから、ここの山の中でこんな姿をしていたら、どんな乱暴者がきて、何をされるかわからないからね、この山を越えていくと何里先にこんな家があるから、そこを頼りにしていって、そこで、下女になって、そこで下女をして働らいて暮らすようにしなさい。」と。「だけどね、私は今ではもう溶けて、からだも溶けて骨とこの皮とを残してあるのだが。骨は自分のものだから、この皮はね、あなたにあげるから、あなたはこの皮をもっていって、昼の仕事をする間は、必ず自分のこの皮を私が生きていると思って、顔からこの皮を離すことはするな。」と。「顔にすぐ皮を、私の皮を全部顔にかぶせて、そして夜寝るときには取って、人に知られないように隠して、寝るときははずして寝るようにしなさい。」と。これは猫が全部いちいち教えてくれたので、「こうしなさいということか。」と思って、またこの皮も墓に行ってみたら皮と骨があったので、この皮をもって家から出て、出てみたものの、この猫がいうように山を越えて行ったら、そこにとても大金持ちの家があった。 それで、「私を使ってください。」と行ったら、そこの人も、「ちょうどよかった。」と喜んで、「私たちもちょうど今人をもっと雇おうと思っていた。使っている人もたくさんいるのだが、お前がそういうのならすぐここで働いてくれ。」「私は親もいない。兄弟もいない。たった一人で家にいることはできないので、必ず使って下さい。」と言ったので、「よし。」と、使うことになったって。それで娘は、ほんとうに猫の皮をかぶったので、「もうどうしたのか、お前の顔はどうした。どうしてお前こんな立派なからだをもっているのに、顔はこんなになっているのか。」と言うと、「私はどうしたのか、わからないけど、小さいときに親が何かやけどしたといって、油鍋でやけどしたが、それがひどくてこんな真黒になって、こんなになったというのを私の父が言って聞かせてくれたが、私は不満を言うこともできない。生まれつきのことなんです。こんなにまでやけどのひどいやけどがあるだろうか。生まれつきのことなんだと自分では思っています。」とそう言ったって。それで、みんなにここで働いている男、女みんなに、「マヤージラ(猫の顔)、マヤージラ。」と馬鹿にされた。この娘は仕事は真面目でね、人がやっている仕事もとってやるくらい。陰日なたもない人だったので、「お前たちが、この子をばかにするとは何事だ。ばかにしてはいけないよ。」と、「みんな、みんなでかわいがってあげなさいよ。」とこの億万長者の主がそういって、みんながいじめたら、怒ったりして、ここでずっと暮らすようになった。 ある日のこと、一人の男がここの家の長男なのだが、長男には見えない。この家は人をこれだけ、こんなにして男、女の下人を使っているのだがどうしてこれだけの人を使っているのかといえば、お金はたくさんあるのだが、この家の後取り、誰にさせようかという考えで、どんな嫁をさがそうかという計画で、これだけの大ぜいの女の中から選ぼうというのが親の方針だったわけね。そしてこの家の長男は、「もうとてもこの娘は、こんなに真面目でね、こんなにも働いて。この娘が猫顔なのは本当に惜しい。たとえこの娘が猫顔でも、私はこの娘を嫁にする。他の人は嫁にしない。」と思って、さんざんこの娘に申し込むのだが、「私は生まれつきこの顔でね、親がこんなに産んだので、私は夫を持つことはできません。それに、あなたには父親も母親もいらっしゃるし、私は一人ものなので、親もあがめなければならない。私はね、人の嫁になることはできません。」と断わった。 そうしているうちに、こんなにいわれてもこの男は、あきらめることができずに、「なにがなんでも、一言でもいいから、娘をよんで話してみよう。」と思って、この娘の寝床に行ったときに、この娘の寝顔を見たら、たいそうおったまげた。もうお姫様のような顔をして、もう天から降りてきたのか、どこから降りてきたのかと思うくらいの美女だったので、「まさか、あのマヤージラが。私は夢を見ているのだろうか。自分は夢を見ているのだろうか。」と思った。でも夢でもない、何でもない、これはほんとうのマヤージラだと思って、こっそり帰った。それからなおさら、この娘に思いを寄せるようになって、「私は、あのマヤージラを嫁にします。」と言ったので、「どうしてお前は。どうしてもこれだけいる奉公人のね、これだけの中からお前は女を選びきれないで、どうしてもこのマヤージラーを嫁にするのか。」と言うと、「マヤージラであってもなんであっても私はこの娘より他に、私は誰ももらわない。この娘をもらう。」と言って、「そんなら今日はね、私がこれほど言っても許さないのなら、私がそれなら今夜、私といっしょにどうしてもあの娘の座敷に行ってください。あれは実は猫顔ではなくてね、これは何か身に何かあって、あんなにしていると思うので、呼んで事情をきいてみようと思っています。あの娘の顔、ほんとうの事実の顔を見せてあげましょう。」と、言ったので、両親もいっしょにこの娘が寝ている顔を見たら、とてもびっくりして、「ほんとうにそうだったんだな。」と思って、親も合点して、嫁にもらうことになったので、「ここにおいで。」と呼んだ。「お前はどうして、お前は実は、ほんとうは神のように美しく生まれた人間だったのに、どうしておまえはこんな猫の顔をかぶって、ほんとうの猫顔のまねをして、猫顔になっているのはどうしてか。」と言ったので、「実はほんとうは、ほんとうの人間なのですが、私はあまりにも天分の高い生まれをしてましてね、人よりすぐれている生まれをしているので、それで『どんなものに縁をかけられるかわからないので、いつもこの猫の皮をかぶってね、この家で働くときにもこの皮はいっときも離さないようにね、昼中働くうちは絶対この皮は離さないで、皮をかぶったままで働きなさい』と養なっていた猫にいわれたよ。」と。「猫が来て、すぐ私に教えてくれて、それで猫がそう言ったので、あなた方の家を頼りにして来たのも、『あの山を越えて何里先に百万長者の家があるので、そこを頼っていって、そこの人に使われて暮しなさい』と教えてくれたので、猫が教えてくれたので、私が養っていたね、兄弟のように養っていた猫が教えてくれたので、こうしているんですよ。」と言ったので、この家の人はよけいびっくりして、「それなら猫の遺骨もお前、取ってきて家で葬ってあげようね。」と言って、それからこの猫の遺骨も行って取ってきて、また両親の遺骨もここにお迎えして、そしてここで拝むようになって。百万長者の嫁になったとの話。 だから、動物でも生きている動物は簡単に考えてはいけないという伝説だというが、これはほんとうのことなのか、うそなのかは知らないが、そういう話だった。 |