ある人が一人漁に行った。毎日夜昼となく行っている海だった。自分で松明を持って、突く物まで持って、それから何か入れるものも持って行ったのでしょうね。ところが、とても良い天気だったのに、人が一人も居なかった。自分一人だけだった。一人だけだったので、「物淋しいなぁ。」と思い、「どうして今日は、人は自分の友だちは居ないのかなあ。」と思い、淋しいとの気持ちがあったのでしょう。その男は、一人だけだった。それで、魚を捕ってかごに入れて振り返り「自分の友だちは来ないかなぁ。」と浜の方を見たりしていた。淋しいものだから、自分の来た道を振り返り、振り返り見ていた。ところが誰も来ない「いいさ、仕方がない、自分は何処から来たか知っているから。」と思い廻っていたそうだ。 しばらくして、浜の方を見ると松明が二つ光っているそうだね。松明が二つあるので、「おお今やっと来たようだなぁ、自分の友だちは出来たぞ。二人も来ているようだ。行って一緒になって、一緒に漁をしないといかん。海では友だちと一緒の方が淋しくなくていい。」と松明が光っている所に行った。近づいて行って見ると、ますます大きくなり、その光が大きくなるので、「なにものだろうか。」と驚ろいていると、猫の大きな目が二つあったそうだ。大変驚ろいて、「猫の目を自分は漁火と思ったのか。」と驚ろき、あと戻りして、海の中に入って泳いで行って、岩の上に乗って、見ていると自分に今にも食ってかかろうとしていた。 ところが、その猫の化け物は水に入って来れないさ。その人が水の中で東に歩くと、その猫も浜を東に歩く、西に向って歩くと西に歩くそうだ。このようになかなか去ろうとしなかった。それで、この漁りをしていた男は、「そうだ。神様というものもいらっしゃる。自分の家で毎日、祈っている竈の神様もいらっしゃる。自分の家で毎日、祈っている竈の神様に、「何干支生まれが、漁りをしにわざわざ来たのに、人は誰も居らず、猫が居て自分に喰ってかかろうとしているが、神様がいらっしゃるものであるなら、どうぞ助けてください。」と、こんなに小さな石ころを足てさぐり当て、海ではこんなに小さな石ころが円るくなった石ころが、ころがっている所があるので、それを岩の上に三つほど並べて、「どうか竈の神様、今日はどうしたことか化け物に見あてられてしまって、自分には漁することも出来ずにいる。恐ろしくて方角さえ知らず、こんな化け物にまどわされて困っているので、どうか私の信じている竈の神様よ、助けてください。神様といらっしゃるのであれば、この命を助けてください。」と祈ったそうだ。 すると、海に入る道の、その小さな浜から、こんなに小さな猫がやって来たそうだ。それで、「あらーっ、この化け猫を何処かへおっぱらってくださいとお願いしたら、また猫がやってきた。」と驚ろいていると、この小さな猫が竈の神様だった。「また大変だなぁ。」と思っていると、この大きな目を光らせている化け猫は、この小さな猫がやって来ると、逃げていったそうだ。この小さな猫が追いかけ、遠くの方まで追いかえしたので、「あら、大きな猫が(牛の子の大きさの猫だったそうだね)こんな小さな猫に追いたてられて逃げていくとは不思議だなぁ。」と立って見ていた。その化け猫を追いかえしてから、この小さな猫は自分の所にやってきて、ミャウミャウと合図をしてきた。「おお、有難とうございます。」と、その猫は竈の神さまであったので、その男は、その場でまた手を合わせ祈っているが、去ろうとしないので、「不思議だ、この猫も自分をねらっているのか、どうしよう。」と恐くなっていた。しかし、この猫は、アウアウと鳴くだけで、浜に上がったり、自分の前にやってきたりしているので、「ほほう、これは家に帰ろうとのことだ。」と思って、上がっていくと、その人の前になったり、後になったり、その男を守って家までついてきた。その小さな猫は、後になったり、その人の前になったりしながら、家まで連れて来て、家の門の近くまで来ると、側になって、ミャウミャウとおじぎをしているそうだ。その猫に、「ああ、有難うございます。これはこれは命の守り神よ、竈の神様だったのか。」と急いで家に入って来て、戸をガラーッと開けて入って、夜中なのに竈の神様に向って泣きながら、「有難とうございます。」と話しているので、もう母や父は、海に行ったことは知っているが、こんなことになっているとは知らんさ。寝っていた母親たちは、「なにごとだ。」と言うので、「何か化け物にまどわされてしまって、今日までの命だと覚悟していると、竈の神様を想い出してお願いしたところ、小さな猫が現われて、自分を家まで、このように連れて来てくれたので、竈の神様の御蔭だと思って、こうして自分は、竈の神様を祈っているのだよ。」と話したとの話しさ。それで、山に行っても、海に行っても、方角が何処から来たのか分らぬ場合には、このように石ころを三つ拾って置いて、それにお願いすると、ちゃーんと分かるのだそうだよ。だから、そのようにしなさいと昔の婆さんたちが話していたさ。 |